先週紹介した米国電子出版市場の調査は、オーサーアーニングス(Author Earnings)の通称“Data Guy”が行ったとのことです。
(再掲)
http://www.ebook2forum.com/members/2016/02/latest-author-earnings-report-shows-expanded-vew-of-the-market-1/
この調査は、アマゾンのAPI(Application Programming Interface)を使いソフトウェアにより各書籍ページに表示されるデータを収集し、そのランキングから実売を推測するリバースエンジニアリングにより実現されているそうです。つまり、ビッグデータ処理によって作られた記事ということになります。
上記リンクの記事を見直してみると分かりますが、数字とグラフに基づいた分析になっています。これこそが「データジャーナリズム」だと思いました。
データジャーナリズムとは、Wikipediaによれば「調査報道の手法の1つ。大規模なデータの集合体をフィルタリングし解析することで、新たな解釈を作り出すことを目的としている」とあるように、コンピュータでデータ処理し、統計的手法により、世の中のファクト(またはなるべくファクトに近いもの)を調査し、報道するということです。
今回のData Guyの記事は正にこれにあたります。Data Guyは現場取材したわけでも、自分の思考で考察しているわけでもなく、コンピュータ処理されたデータがすべてを語っているのです。そしてその結果が、これまでの米国出版社協会などのアナログの調査・考察より格段の説得力を持っていることに注目すべきでしょう。
データジャーナリズムについてはこれまでにもいろいろ解説され、今後重要だという見解は出されていましたが、今回の記事で実物を見た思いがしました。
ところで最近は、「オープンデータ」(自由にアクセス・再配布できるデータ)という取り組みが進んできています。特に、政府や行政情報の面で活発です。このオープンデータが普及していくことで、データジャーナリズムはより威力を増してくると予想できます。たとえば、新聞などでは報道されてきませんでしたが、各省庁予算の経年推移グラフが毎年報道されれば、国としてどの分野に力を入れているか、またいないかが、文章による考察より一目瞭然になることでしょう。
それともう1つ、「APIエコノミー」(APIを活用した経済圏)という言葉も密かに重要性を増しています。自社のWebサービスの機能の一部を外部からも(ソフトウェアにより)自由に使ってもらえるようにし、その結果、新しい価値を創出してもらうということですが、今後、大きな経済効果を生み出すと予想されています。その代表企業がグーグルであり、facebookであり、アマゾンなのです。
今回のData Guyの記事は、アマゾンのAPIエコノミー戦略によって可能になったとも言えるでしょう。少なくとも、この報道により、アマゾンが著者にとって売上を伸ばしてくれる存在であることが立証されているのです。
インプレスR&D発行人/OnDeck編集長 井芹昌信
※この連載が書籍になりました。『赤鉛筆とキーボード』